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けんじさんの死別体験 エピソード003 悲嘆からの回復—グリーフケアとの出会い
◆20年一緒に暮らしていても身元確認ができない矛盾
エピソード2でも書きましたが、ひろしさんからは天涯孤独で、身内はいないと聞いていました。しかし、警察が調べたところ、実は兄弟がいることがわかりました。ひろしさんのご両親は、ひろしさんが子どもの頃に離婚しており、ひろしさんはお姉さんと一緒にお母さんについていき、お兄さんと弟さんはお父さんについていったのです。お母さんとお姉さんは亡くなっていました。お父さんも亡くなっていたとのことで、警察はお兄さんに身元確認を求めたようです。しかし、40年近くも会っておらず、10代のころのひろしさんしか知らないお兄さんに、見た目で本人と判断することはできませんでした。というか、当たり前ですよね。その結果、DNA鑑定をすることになり、それから3か月待つことになりました。
そのような状況でも、私がひろしさんの身元確認をする権利はないとのことです。40年間会っていない兄弟と20年一緒に住んでいた私、どちらがひろしさんのことを知っているのでしょうか? これが異性の結婚という形をとっていれば、奥さんは身元確認をする権利があります。内縁関係でも異性であればパートナーが身元確認することができます。同性のパートナーというだけで、なぜ身元確認もできないのでしょうか?
DNA鑑定の結果が出るまで、いろいろありましたが、結局3か月待たされました。しかも、お兄さんはひろしさんの遺体を引き取らず(ちなみに警察はお兄さんの連絡先も教えてくれませんでした)、その結果として、行政が無縁仏として荼毘に付すことになりました。この状況でも、私が葬儀を行なう権利は与えられませんでした。20年一緒に暮らしていても、葬儀を出すこともできないのです。なんということでしょうか!
結局、行政が荼毘に付す火葬場で、友人などを集めてお見送りをすることにしました。東京という土地柄か、行政の担当者は友人が同席することは認めてくれました。私も含めて8名の友人が集まって、ひろしさんを見送ることができました。
ただし、お骨も私には管理する権利がなく、お墓を建てることもできません。行政が無縁仏のお骨の管理を委嘱しているお寺さんが、ひろしさんのお骨を管理してくれて、そこにお参りにいくという形になりました。通常は5年くらいで集合墓地に入れられてしまうということでしたが、定期的にお参りに行っている間は、管理してくれるということでした。もちろん、口約束に過ぎませんが。