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ソウマさんの手記「30年を共にした同性パートナーとの死別」 <闘病篇>
◆発病・緊急入院・告知
新居への引越しの前日、カオルが発熱。準備で疲れが溜まっていたのだとばかり思っていた。解熱剤で体調をごまかし引っ越しを済ませてから1週間、好きだったお酒を飲まないことに気づき、なぜかとたずねると、もう2週間も便通がないと言ってお腹を見せてくれた。パンパンに膨らんだお腹。
私は「素人目に見ても普通じゃないから、すぐに病院に行って」とお願いした。
結果は「腸に何かが巻き付いている」「CT検査をしてください」とのこと。おそらくは進行した卵巣癌で地元の総合病院では対処できないため、がんセンターに紹介状を書いてもらった。がんセンターへは精密検査のつもりで行ったが、非常に危険な状態であるため即日入院。
仕事中、カオルからメールが入り、慌てて会社を早退し病院へ向かった。
医師の説明では、がんのステージはⅢc~Ⅳa。お腹に散らばった腹膜播種は手術では取りきれないため、抗がん剤が効かなければ希望は薄いと告知された。カオル本人も私も「死」を意識した。
入院手続き書類の保証人欄には、カオルの希望で私の名前だけを記入した。医師や看護師は、同居人の私ではなく、家族の名前を記入にて欲しいとカオルを説得したが、カオルは私以外は必要ないと言い断った。
カオルは状況を冷静に受けとめ、淡々と検査や治療に臨んでいたが、私はその日から、いっさい食事が喉を通らなくなった。カオルが死んでしまうかもしれないという恐怖が頭から離れず、駅のホームで電車を待っている時、見ず知らずの人から「顔色が真っ白ですが大丈夫?」と声をかけられるほどだった。私自身は普通に電車を待っていただけだったが自殺しかねない顔をしていたのかもしれない。
不安が恐怖にまで達すると血の気が引くというのは本当だ。
それでもカオルの前で泣いたり取り乱したりするわけにはいかない。本人はもっと苦しい。