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ソウマさんの手記「30年を共にした同性パートナーとの死別」 <闘病篇>
◆手術 : 毒の実を集めて
抗がん剤が効き、がんと腹水が減ってきたことで、やっと手術が可能になった。
手術さえすれば、完治しないまでも一緒に過ごせる時間は伸びる。ただそれだけで嬉しかった。
手術前日には、外科医であるカオルの父も手術執刀医の説明を一緒に聞いてくれた。
専門的なことがわからない私にとっては心強い存在だった。
手術では胸の下から下腹部まで縦に切開するらしい。
カオルは病室で2人だけになったとき、「傷がつく前のきれいなお腹の写真を撮ってほしい」と言った。
私はカオルの全身写真を数枚カメラに収めた。手術当日の付き添いは私一人。カオルの父は仕事で立ち会うことができず、母や弟には入院のことも手術のことも知らせていない。
看護師さん、カオル、私の3人は、普段とは違うエレベーターで手術室のある階まで移動した。
「ストレッチャーで運ばれるんじゃないんだね」などと歩きながら話しているうちに手術室の前に着いた。
ここから先、私は入ることができない。
これが最期になる可能性もある。カオルも考えていることは同じ。お互い視線を合わせ無言でうなずく。
カオルは静かに微笑んで「じゃあ、行ってくるね」と手を振った。
私も「頑張って」と送り出した。手術後「1cm以上のガンは全て取りきりました」と執刀医は明るく言った。
だが、裏を返せば1cm以下のものは残っているということ。不安は残るが、術後も抗がん剤でがんを抑え込んでいれば、いずれは完治を目指せる新薬が出てくるかもしれない。
生きる希望を持って1週間後に退院した。