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ソウマさんの手記「30年を共にした同性パートナーとの死別」 <闘病篇>
◆病院での年越し
カオルが壁の時計を指差した。
11時45 分。毎年見ている「ゆく年くる年」が始まることは、喋れなくなってもわかっているようだった。
除夜の鐘が鳴り、年が明けた。私 「あけましておめでとうございます」
カオル「あけましておめでとうございます」(オウム返しはできる)
私 「・・・」
カオル「・・・」しばらくの沈黙。
本当なら「今年もよろしくお願いします」と続けるはずが、余命が長くないと知っている私には、その後を続けることができなかった。
カオルがそのことをどう思っていたかはわからない。しかし、50年間続けてきた新年の挨拶を忘れているはずがない。
来年の正月はない、自分の命がもう長くないということは、きっと私の態度から悟ったはず。