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ソウマさんの手記「30年を共にした同性パートナーとの死別」 <闘病篇>
◆旅立ちの朝
その夜も私は病室の簡易ベッドに寝てカオルの様子を見守っていた。
私が寝入って少しして、「ウー、ウー、」と、うなる声。
鎮静剤?モルヒネ?もう何が混ざっているのかもわからない。とにかく、ボタンを押すと楽になる薬が投与されるスティックを握った。私「押すよ」(少しは楽になるからねという思いを込めて)
答えはないが、「うん」と言ってる気がした。明け方5時過ぎ、ウトウトしていると看護師さんに肩を叩かれ「心臓の音が弱くなってきています」「親族の方に連絡を」と言われた。
カオルを見ると、看護師達に上体を少し斜めに起こされ、身体も表情も硬直してはいるものの、まだ胸は動いていて呼吸もしている。
窓から見えるスカイツリーの点滅が心拍に連動しているように見えた。医師や看護師は、事前に私たちの関係を把握しており、席をはずしてくれたのか、看取ったのは、私1人だけだった。
ペアの指輪を掌に置き、手を握り「会えてよかったね。また会おうね。ありがとうね」と耳元で伝えた。
聴力は最後まで残るというが、届いただろうか。最後にカオルの父が面会に来たとき、話すことも反応することもできなくなってきたカオルと私の前で、心臓と脳の停止のプロセスと、それにかかる時間について説明してくれていたことを思い出した。
ついにこの時が来てしまった。
私は涙で顔がひどい状態。
ベッドサイドの洗面台で顔を洗って顔を上げた瞬間、気配の違いにハッとし、カオルを見た。
彼女の胸の動きは止まっていた。駆け寄って確認するやいなや、別の部屋でモニターしていたのであろう医師と看護師が部屋に駆け込んできた。
亡くなる瞬間の最期のひと息、その瞬間があったのか? なかったのか?
まだ時間が数分は残されているだろうという思い込みから一瞬目を離してしまった。
看護師がカオルの父に連絡を入れると、死亡確認は私に任せるとのこと。
ドラマでよく見るシーン。モニターの心拍数ゼロの表示、ペンライトでの瞳孔確認。
夜が明けて太陽が昇るに従い、トキ色の朝焼けが徐々に周囲のビルの壁面を明るくしてゆく。
午前6:01、夜明けと共にカオルは旅立っていった。