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【アライアスリート・インタビュー⑧】「誰でも好きな人同士が結婚できる社会に」 元シュートボクシング王者・高橋藍が語る同性パートナーとの歩み
プライドハウス東京(PHT)では、2022年より、「アライアスリート」の輪を広げる活動に取り組んでいます。アライ(ally)とは、「同盟、味方」などを表す言葉。LGBTQ+当事者の味方としてともに行動する人たちを総称してアライといい、LGBTQ+当事者もアライになることができます。アライアスリートは、そのようなアライであることを公言し、スポーツ界から社会を動かすアクションを一緒にしていくアスリートです。
そうしたアライアスリートの育成・輩出にPHTとして取り組みはじめて早3年。今年、アライアスリートの人数が45名になりました。そこで、2025年度は、多様なアライアスリートの存在を知っていただけるよう、インタビュー連載を実施しています。全10回にわたり、各アスリートの来歴やアライアスリートになったきっかけ、活動内容などを取材。それぞれの想いをお届けします。
連載8回目は、元シュートボクシング選手の高橋藍さんにインタビュー。元ボクシング選手の藤岡奈穂子さんとのパートナー関係や、誰もが生きやすい社会の実現に対して思うことなどについて詳しく話を聞きました。
■プロフィール
高橋藍(たかはし あい)/元シュートボクシング選手、初代シュートボクシング日本女子フライ級王者
1982年生まれ、千葉県出身。2009年6月にプロデビューを果たす。2011年にシュートボクシング日本レディース王座の王座決定戦で勝利を収め、王座を獲得した。2015年12月に引退試合を行い、現役生活を終了。現在はライターとしても仕事をしながら、順天堂大学大学院でスポーツマネジメントや女性スポーツについて研究中。また、格闘技指導や講演活動も行っているほか、NPO法人サンカクシャにて若者の居住支援担当としても活動している。
初めて女性を好きになった。藤岡さんとのパートナー関係のはじまり
——高橋さんは、元ボクシング選手の藤岡さんと同性パートナーの関係を築いていらっしゃいますよね。先日藤岡さんにインタビューした際、お二人は高橋さんの出場されていた大会で、共通の知人を通じて知り合ったと伺いました。
そうです。2015年の大会に藤岡さんが観戦に来ており、そこで知り合いました。

——高橋さんは、藤岡さんのどのようなところに惹かれたのでしょう?
小さい頃から憧れていた「強くてかっこいい人」の理想の姿に、藤岡さんがぴったりと当てはまっていたことがきっかけです。
私は性自認は女性で、恋愛感情を抱くのも男性で、いわゆるマジョリティの女性として生きてきました。でも、世間一般の女性像、特に「男性よりも弱い存在」というイメージに対して、幼い頃から懐疑的だったんです。だから、成長する中で、自然と「人として格好よくあること」「かっこいい女性であること」に人一倍憧れを抱くようになっていました。
加えて、小さい頃から格闘技をテレビで観るのが大好きで。好きが高じて、21歳でシュートボクシングジムに入会しました。当時はプロになるという大それた目標は持っていませんでしたが、スカウトをきっかけに27歳でプロデビューしました。
私が練習していたのは全員が男性という環境でしたが、「絶対に負けるもんか」と練習に励みました。しかし、シュートボクシング選手として引退が頭をかすめるようになっていたとき、今までの努力の仕方では、どんなに練習を重ねても“超えられない壁”があることに気がつきました。
そんな時、藤岡さんと出会ったんです。藤岡さんを前にした時、「強い人、来た〜!」と気持ちに火がついて、即座に練習に付き合っていただくことをお願いをしました。練習を一緒にして衝撃だったのは、藤岡さんの強さはもちろんですが、「100%の力でパンチを打ち過ぎ」「練習に満足して試合で勝てないのは意味がない」といった言葉でした。それまでは「もっと頑張らなきゃ」と考えていたので、その言葉に戸惑いました。しかし、藤岡さんの強さの秘訣をすべて吸収したくて練習を重ねていった結果、だんだんと自分の戦い方が変わり、これまで超えられなかった壁を乗り越え、引退試合で今まで勝てなかった相手に勝つことができて。藤岡さんへの感謝の気持ちを抱くと同時に、戦い方や練習の仕方を独自に編み出してきた姿勢に改めて尊敬の念が湧き、気づけば新たな気持ちが生まれていました。
——女性を好きになった経験がなかった高橋さんにとって、ご自身の気持ちの変化には戸惑いもあったのではないでしょうか。
ありましたね。藤岡さんへの気持ちが尊敬とはまた違った感情だと自覚し、自分が女性を好きになったことに最初は驚きました。
仲の良い友人が行うLGBTQ+に関わる活動に参加したこともあり、私はどちらかというとLGBTQ+に対して分け隔てない立場であったと思います。でも当時は、女性同士のカップルに出会ったことがありませんでした。気づけば自分自身が、人生で初めての女性同士のカップルとなっていたので、藤岡さんとの関係には戸惑いの気持ちがありました。

「誰でも好きな人同士で結婚できるような世の中のほうが絶対に良い」
——そこから関係を築いていったお二人は、藤岡さんのボクシングの関係で渡米した際、滞在先のカリフォルニア州で結婚の手続きをしたと伺いました。
そうなんです。藤岡さんのボクシングの合宿でアメリカに渡ったのですが、現地に住んでいる方から「ここでなら同性カップルも結婚できるよ」と教えていただいて、「せっかくだから」と結婚しました。将来的に藤岡さんとアメリカに移住することも考えていたので、ビザなどの手続きがスムーズであることも、結婚を積極的に選択した理由のひとつです。
——現地で結婚の手続きを終えて、どのような心境でしたか?
私たちがカップルとして認められたと感じ、胸がいっぱいになりました。
——アメリカで結婚を経験して、社会の空気や制度について、日本と異なると感じた点があれば教えてください。
現地の家庭裁判所で手続きをしたのですが、藤岡さんと私が同性カップルとして結婚することに、ネガティブな反応は全くありませんでした。もちろん、アメリカ国内でも同性婚に反対する人はいると思うのですが、場所がカリフォルニア州だったこともあり、関係性をオープンにできる環境でとても居心地が良かったです。窓口でも同性同士ということには触れず、「結婚するのね? おめでとう。じゃあ、この書類を書いてね」と対応してくださって、非常にスムーズに手続きが進んだのが印象的でした。
——お二人は花嫁同士で結婚されたのですよね。
そうです。手続きに際して自分が花嫁か、花婿かと役割を選択するとは思っていなかったので少し驚きました。私が花嫁を選んだ後、藤岡さんに「どっちにするの?」と聞いたら「花嫁かな」と言うので、藤岡さんの新たな一面に触れられておもしろかったです(笑)。
——アメリカとは異なり、日本ではまだ同性婚が認められていない現状を、高橋さんはどのように感じているのでしょうか。
2025年11月末の東京高等裁判所の判決でも、同性婚を認めない現在の法律は「合憲」という判決が出ましたが、いろいろな視点から見て、やはり現在の状況には異論を唱えたい気持ちはあります。
パートナーが同性であれ異性であれ、「好きな人同士が結婚を希望して、一緒になる。それでいいじゃない!」と思っています。以前は私も「どちらかが病気になった時にきちんと対応できるようにしたい」など、同性婚を認めるべき理由を探していました。しかし、ある日ふと、異性間の結婚では、「何かあった時のために結婚しておこう」といった会話を基本的にはしないな、と思いました。誰でも好きな人同士で結婚できるような世の中のほうが絶対に良いと、私は考えています。
——高橋さんはSNSなどでも同性婚の現状を発信されることがあります。それはやはり、世間に少しでも現在の状況を知ってほしいという想いからなのでしょうか。
日本では法律上、同性婚が認められていないという事実を、意外と知らない人が多いのですよね。先日講演に訪れた中学校でも、生徒から同性婚ができる前提での質問が複数上がって。2025年5月にウェディングパーティーを開いたときも、出席してくださった方の多くが、日本では同性婚ができないことに驚いていました。私たちが思う以上に、認知が進んでいない現状があります。
——なるほど……。一方で、同性婚の制度化を議論する際、わざわざ同性同士の婚姻関係を認めずとも、自治体のパートナーシップ宣誓制度で代替できるのではといった声もよく耳にします。
おそらくほとんどの方は、法律上の婚姻関係とパートナーシップ宣誓制度で認められた関係との違いを深く考える機会は少ないと思います。パートナーシップ宣誓制度は婚姻制度とイコールではないということも、まだ認知が進んでいないと感じています。
——高橋さんと藤岡さんは、お二人の関係を法的に示す手段として「東京都パートナーシップ宣誓制度」を申請されたと聞きました。実際に制度を利用してみて、いかがですか?
婚姻制度と比較してみると、できないことが意外とあるなと感じました。例えば、生命保険の保証人や代理受取人。保険会社によっては、パートナーシップ宣誓制度の証明書で保証人や代理受取人、被保険者がこん睡状態に陥った際の意思決定の代理人などを同性パートナーに指定できるのですが、私が加入している保険では一部の項目しか認めてもらえず……。全部で3つあった項目のうち、結局1つしか藤岡さんを指定できず、残りは以前から記載していた父の名前のままとなってしまいました。

好きな人と、ただ一緒にいたいだけ。パートナー関係の公表にためらいはなかった
——先ほどお話に上がったウェディングパーティーについてもお聞かせください。パーティーを開催して、周囲の反響はいかがでしたか?
おかげさまであたたかい言葉をたくさんいただきました。「いつか2人のように堂々としたい」と言ってくださる同性カップルもいて、嬉しいことだなと感じます。皆さんからお祝いをしてもらえる景色を藤岡さんに見てもらえたのも、本当に良かったです。
——ウェディングパーティーをきっかけに、お二人の関係を公表されたのですよね。
はい。パートナー関係を公表したことで、初めて会った方にも「私たちカップルなんです」とすんなり言えるようになり、とても気楽になりました。また、藤岡さんと私を大切に思ってくださっている方々にも、私たちのことをどこでも、誰でも堂々と話してもらえるようになったので、良かったと思っています。関係を公にして、実は周囲の方々にも気を遣わせていたのだなと気がついたので……。
——パートナー関係を公表することに、ためらいなどはなかったのでしょうか。
私はもともと、藤岡さんとの関係を公表することにためらいは全くありませんでした。それはたぶん、私が異性愛者であったことも関係しているのだと思います。
これまで誰に隠すこともなく恋愛をして、友人とも堂々と恋愛話をして、パートナーを両親に紹介して……と、多くの人が思い描くいわゆる“普通”の人生を過ごしてきました。だからか、好きな人を当たり前に好きでいられること、その人との関係を周囲に公言することに後ろめたさがありません。好きな人の性別が同性だったとして、異性愛と違ったことは何一つないと思っています。もしも誰かから何か言われたとしても、私と藤岡さんが一緒にいることは事実なので、「異論を言われたところで、じゃあどうすればいいの?」と感じてしまいます(笑)。
ただ、藤岡さんは、私とはスタンスが違いました。はじめは関係を公表することには否定的でした。当時はまだ現役選手だったこともあり、関係性をオープンにすることで競技以外で注目されることを避けたかった気持ちもあったのだと思います。一方で、物心ついたころから性自認について葛藤を抱えてきた過去もあったので、私が結婚や子どもといった言葉を出した瞬間に、心のシャッターを閉められてしまったこともありました。
でも、それを側で見ていて、私個人としては釈然としない気持ちもあって。藤岡さんはこんなにも素晴らしい人なのだから、何があっても堂々と生きていけばいい。藤岡さんと一緒に歩んできたこの10年間、私はずっと「あなたに非はまったくない」「一切後ろめたく思わなくていい」と言い続けてきました。そうした声かけを経て、関係性をオープンにしてからは、藤岡さんが自認に関して否定的な言葉を使うことは無くなったと感じています。
——高橋さんはもともと恋愛対象は男性でしたが、藤岡さんがパートナーであることを公表した際、友人や家族などはかなり驚かれたのでは?
両親も友人も、最初は驚いていましたね。ただ、私の両親は最終的には受け入れてくれるだろうと信頼していたので、藤岡さんとの関係を打ち明けることにそこまで心配はありませんでした。実際、両親に話をした際、父は少し驚いた表情をした後で、「じゃあ、お父さんは藤岡さんに会えるってことか」と、藤岡さんと家族になれることを喜んでいたくらいです(笑)。母のほうが戸惑っていましたが、今では大切な家族の一員として温かく接してくれています。
学生時代からの友人の何人かには、最初は「ちょっと理解ができない」と言われたこともありました。私がこれまで恋愛感情を抱いてきた人が男性であることを知っているので、「なぜ女性のパートナーを?」という気持ちがあったのだと思います。でも、今ではみんな普通に私と藤岡さんを受け入れてくれています。
——周囲からの理解が得られたのは、高橋さんが家族や友人と根気強くコミュニケーションをとってこられたからなのでしょうか?
いえ、私としては説得するつもりも、心底分かってもらうつもりもなくて。ただただ、「私と藤岡さんは一緒にいるだけ」なので、周囲に対しても気後れすることなく、藤岡さんとの日々の出来事を普通に話題に出していました。だから、友人たちも「ああ、普通のカップルなんだな」と思ってくれたのではないかと。
——なるほど。高橋さんの考え方とごく自然な振る舞いが、周囲の視線や考え方に影響を与えていったのですね。
同性カップルは自分たちとは違う、特別なもの。そういう認識があった人にとっては、いきなり同性カップルが目の前に現れて、困惑した部分もあるのかと思います。でも、私が藤岡さんと食事をしたり、喧嘩をしたり、2人で一緒に過ごしたり、そういう普通の生活を送っていることをごくごく当たり前に話してきたことで、異性のカップルと何ら変わりがないと感じてくれたのかなと思いますね。
多様な人が身近にいることを知る。
あらゆる人が暮らしやすい社会にするために大切なこと
——現在の日本をあらゆる人が暮らしやすい社会に変えていくために、どのような仕組みや意識が必要だと思いますか?
「身近なところにいろいろな人がいる」ということをより多くの人に知っていただけると、社会が少しずつ変わっていくのかなと思います。藤岡さんと一緒になるまでは、私もゲイの友人に「女性同士のカップルも多いの?」と尋ねていたくらいでした。そんな私が女性同士のカップルの方々にも家族のように暮らしている方もいると認識できたのは、以前参加した熊本での「お話会」がきっかけで。藤岡さんと家族になる方法を調べていたとき、たまたま見つけた「女性同士のカップルの子育てについて話をする会」に参加して、登壇された2組のカップルを見て、実感を伴って希望を持つことができました。
LGBTQ+当事者と聞くと、メディアの影響もあり、どうしても見た目にインパクトのある方や考え方が尖っている方などをイメージしがちかもしれません。でも、多くの方は皆さんと同じような日常を送っているわけです。
どんな人も自分らしくいることが当たり前。同性でも、異性でも、好きな人同士が一緒にいることが当たり前。そういう「当たり前」の認識を育めたら、あらゆる人が暮らしやすい社会の実現に繋がるのではないでしょうか。
——高橋さんと藤岡さんは今後、大学院での学びを活かし、女性向けの格闘技のアカデミーを作る構想があると伺いました。アカデミー創設にかける想いもお聞きしたいです。
私自身、思春期から20代前半まで、社会規範である「女性らしさ」というものに違和感がありました。でも、格闘技に出会い、性別に関係なく強さを追い求め、強くなればなるほど人に喜んでもらえるという経験ができました。だからこそ、格闘技をひとつのツールとして、女性たちが自分の人生を自分の手で切り拓くパワーを共に育めるような場所を作れたらと考えています。
格闘技を通じてどのような指導プログラムを作っていくのか。大学院での学びを活かして、藤岡さんとアカデミーの中核となる部分を考えていきたいと思っています。
——最後に、LGBTQ+当事者の方やLGBTQ+に関心のある方に向けてメッセージをお願いいたします。
人と言っても、その姿や趣味嗜好、生きてきた軌跡は一人として同じではありません。違いがあるからこそおもしろく、また私は人との出会いによって自分の世界が大きく広がりました。藤岡さんと一緒になり大変なこともありましたが、それでも、いろんな出来事があっての今だと思っています。
同性カップルが結婚するという当たり前の未来はいずれ訪れると思っているのですが、それが遠い未来ではなく、今日、今すぐにそうであってほしいです。結婚に限らず、誰もがその人らしく生きられる世界であってほしいですし、私もそのためにできることをやっていきます。
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